~理論で終わらせない 実務で使うMBSE~

MBSE入門

初心者~中級者向け

安全に対するアプローチに取り巻く環境

自動車はとても便利で我々の生活を豊かにしてくれる製品です。一方で、大きな質量の物体に乗って高速で運動するものであるため、危険なものであることも事実です。自動車の購入を考える上で、使用する製品の安全性はユーザーが求める最も重要な要求事項の一つです。どんなに素晴らしい機能が低コストで提供できても、ユーザーが安心して使えなくては意味がありません。

安全性が製品の価値を高めることは疑いありませんが、その検討過程はとても複雑です。特に現在の自動車には電子デバイスや通信機能が多数搭載され、各種入出力によって機能を実現しており、システムの複雑さがますます増加しています。そして、安全性を考える必要がある設計要素もそれに合わせて増加し続けています。

安全性の論証とその規格

『安全に“絶対”はない』という言葉が示唆するように、安全性を証明することは非常に困難が伴うと考えられます。安全性を証明する一つの手段として、いかに網羅的に、正しく考えられたか、そして正しく検証ができているか等に対して、プロセスを規格化することによって論証していく方法がとられています。自動車においては一般的な電子機器の機能安全規格であるIEC61508から派生したISO26262がその代表的なものです。また、ISO26262の第2版では自動車だけでなくトラック、バス、モータサイクルへと対象範囲を拡大しています。

ISO26262ではプロセスが定義されており[図1]、Part3、Part4、Part5およびPart6と機能を段階的に詳細化しながら機能安全分析を行うように規格化されています。検討のトレーサビリティを確保しながら、自システムで行うべきことと他システムに対する要求を段階的に詳細化していくアプローチ手法は、システムズエンジニアリング(SE)の考え方そのものであり、機能安全論証とシステムズエンジニアリングは親和性が高いと考えられます。

[図1:ISO26262アウトライン]

出典)一般社団法人 日本自動車研究所

https://www.jari.or.jp/research-content/mobility/training-consulting/functional-safety

機能安全にSEを適用することのメリット

システムズエンジニアリングは上位概念よりシステムを分解しながらそのアウトラインを検討していく方法です。そのメリットの一つはシステムを俯瞰しながら、点ではなく面でとらえ徐々に細分化することで、検討に対して抜け漏れを減らすことがあげられます。安全性が求められる状況は自動車を活用するほぼすべてに於いて発生するので、検討の抜け漏れを防止するためにシステムズエンジニアリングを用いたアプローチを行うことは有効です。

また、一度システムズエンジニアリングに則ってシステムの分析を行うと、次回以降でその内容を再利用できる可能性があります。このことは、システム設計や製品設計の中に於いて実績のある考え方を下敷きに新たなシステムを考える過程と似ています。通常、過去の検討経緯は、『なぜそういう結論に至ったのか』が細かい部分では属人化していることが多く、それを調べることに多くの時間を要しますが、システムズエンジニアリングではトレーサビリティが確保される特徴を持っていることで、その経緯まで確認することができるからです。

機能安全におけるSEの課題

図2のように機能安全の検討では、論証のために導出の過程を残していくことになると思います。その情報の残し方は表計算ソフト(Excelなど)を使われている方も多いと思います。表計算ソフトは小回りが利き、隣り合うセル同士の関係やリンクからトレーサビリティを構築でき、さらにはファイルを共有することでメンバー間での協業を行いながら機能安全活動を進めることができます。表計算ソフトが持つこれらの特徴はシステムズエンジニアリングの実施に適していると言えます。しかしながら、システムが大きくなり、扱う設計要素が増えていき他システムとの複雑な関係性を管理しながら自システムの設計要素を決定するといった現実的な業務の中では、データ管理や操作が煩雑になっていき業務効率が下がっていきます。

 システムズエンジニアリングに則って分析を進めていくと大量の情報を扱っていくことになります。上位概念から樹形図的に情報を分解していくので、その情報量は指数関数的に増加していくことがわかります。とても大変な作業ですが、必要性があるためそれらの情報は正しく扱われ、運用されていくことが重要です。

[図2:機能安全検討プロセス]

モデルベースシステムズエンジニアリング(MBSE)を用いた解決手法

 MBSEはこれらの問題に対処するために、表計算ソフトなどのドキュメントで対応していたシステムズエンジニアリングの成果を抽象的なモデルとして扱うことで情報の取り扱い性を改善させます。MBSEとは普段の業務の中で行っている検討成果をより付加価値の高いものに変える手段です。実際には、専用のソフトウェアを導入することで、表計算ソフトでは実現できなかったデータ管理や高度なデータ活用が可能になります。下記にMBSE導入による代表的なメリットを例示します。

・モデル化による可視化:

システムをモデル化することで、複雑なシステムを可視化し、同じモデルの情報を使うことで関係者全員が理解を共有することができます[図3]

[図3:モデルを中心とした開発イメージ]

・トレーサビリティの確保:

システムに求められる安全要件や機能などの情報をモデル内で管理することにより設計から検証までの一貫したトレーサビリティを確保できます [図4]

[図4:設計トレーサビリティ]

・設計変更の影響分析:

 ツールによるモデル化を行うことで、設計変更が安全要件に与える影響の分析と範囲の特定がしやすくなります [図5]

[図5:影響範囲分析イメージ]

・変更管理の効率化:

ツールを用いることで、設計変更の影響を簡単に分析し、変更管理を効率的に行うことができるます[図6]

[図6:差分抽出]

・システムの再利用性向上:

モデルを過去資産として再利用することで、新たなシステム開発を効率的に行うことができます [図7]

[図7:モデルの再利用]

結び

サイバネットシステム(株)、サイバネットMBSE(株)では上記のような課題に対して、システムズエンジニアリングからMBSEまでを一貫してサポートさせていただき、お客様の業務の実情に合わせたソリューションを提案させていただいております。お客様と共に考えながらの共創的なご支援を行っております。コンサルティングサービス、並びにツールに関してご要望、ご連絡をお待ちしております。