~理論で終わらせない 実務で使うMBSE~

MBSE入門

初心者~中級者向け

MBSE導入で仕事はどの様に変わるのか?

MBSEとは、”MBSEとは?“にて詳述している通り、「Model Based Systems Engineering(モデルベース・システムズ・エンジニアリング)」の略称で、「モデル(Model)」を用いて、「システムズ・エンジニアリング」を実践しながら製品開発を進めることを示します。

 機械設計やCAE(Computer Aided Engineering)のご経験がある方が「モデル」と聞くと、どうしても3D-CAD「モデル」やシミュレーション「モデル」を思い浮かべてしまいます。

そのような「モデル」を活用したシステムズ・エンジニアリング(SE)がMBSEなのかな?と誤解してしまうことがあるかもしれません。

実態としては両者が大きく異なることは、“MBSEとMBDの違い”にて記載している通りとなります。

 一方、日本の産業・製造業界において、MBSEの採用は未だ黎明期と言わざるを得ない状況です。その発展の障壁となっているのが、「MBSEを導入すると、従来の仕事の仕方がどう変わるのか?」の理解が難しいことが理由の1つに挙げられます。

そこで、本記事においては、ここ十数年で多くの産業・製造業界の企業様が通過してきた「3D-CADを導入すると仕事の仕方がどう変わるのか?」と照らし合わせることで、MBSEの理解を深めたいと思います。

2D-CAD vs. 3D-CAD

表1に、「2D-CADや紙図面での設計環境」から「3D-CADによる設計環境」へのシフトによる得失比較を、表2に「紙/ドキュメントベース(Paper-Based)の仕様管理環境」(PBSE)から「モデルベース(Model-Based)による仕様管理環境」(MBSE)へのシフトによる得失比較を示します。

表1(設計環境)と表2(仕様管理環境)では、それぞれ同じ項目で得失比較をしています。各項目において、3D-CAD導入とMBSE導入それぞれによる得失比較を見比べると、同様になっていることが分かるかと思います。

次に、2D-CADから3D-CADへのシフトの嬉しさについて考えてみましょう。2D-CADでは線を平面内に独立的に配置して形状情報を表現していましたが、3D-CADでは面を空間内に従属的に配置することにより、立体的な形状情報(モデル)を扱えるようになりました。その結果、関係者各人が見たい角度や断面から見た必要な情報を多角的に抽出できるようになり、形状情報の取り扱いに自由度が生み出されました。また、パーツモデルやアセンブリモデルをPLMツールと連携させてBOMとして管理したり、モデルをCAE用のシミュレーションモデルに変換したりするような活用も容易に行えるようになりました。(図1)

図1. 2D-CADから3D-CADへのシフトイメージ(CYBERNET Channel:(13) SpaceClaim の図面表現例 – YouTubeより抜粋)

PBSE vs. MBSE

PBSEからMBSEへのシフトにおいても、同様のことが挙げられます。従来の要求仕様は、仕様書や仕様一覧表という形のドキュメントを文字や文章を独立的に羅列して表現していました。これをSysML(システムズモデリング言語)で記述することにより、モデル要素を紐づけながら従属的に配置することによるデジタルな要求仕様(モデル)となりました。その結果、関係者各人が見たい角度や断面から見た必要な情報を多角的に抽出できるようになり、情報の取り扱いに自由度が生み出されました。また、上位アーキから下位アーキまでの要求仕様の紐づけも連携させて管理したり、アクティビティ図のような動作シーケンスを表すようなモデルを1D-CAE用のシミュレーションモデルのベースに変換したりするような活用も容易に行えるようになりました。(図2)

環境変革の類似性

上記から分かるように、MBSEの導入によって起きた仕様管理環境の変革は、かつて3D-CADの導入によって起きた設計環境の変革と酷似していることがお分かりいただけたと思います。

これまで、日本の産業・製造業界は、V字の左側の設計プロセスにおいて、2D-CAD➡3D-CADや1D-CAEによる先行システム評価のように、V字を駆け上るようにデジタル化を促進してきました。次に求められる変革は、PBSE➡MBSEであることは自明であると、私は信じています。(図3)     【執筆者:R.K.】

用語一覧

  • SE: Systems Engineering 複雑なシステムやプロセスを設計・開発・運用する際に使用される学際的なアプローチや手法のこと
  • MBSE: Model Based Systems Engineering 必要な情報の構造体(設計、分析結果、判断基準等)を電算機で取り扱えるにして行うシステムズエンジニアリング手法
  • PBSE: Paper-Based Systems Engineering 設計、分析結果、判断基準等必要な情報を電算機を使わずドキュメントベースで行うシステムズエンジニアリング手法
  • SysML: Systems Modeling Language 技術分野における標準化を進めている団体OMG(Object Management Group)が定めたSEのためのモデリング言語
  • CAD: Computer-Aided Design コンピュータを使用して設計や製図を行うための技術およびソフトウェアの総称
  • CAE: Computer-Aided Engineering コンピュータを使用してエンジニアリングの解析やシミュレーションを行う技術およびソフトウェアの総称
  • PLM: Product Lifecycle Management 製品のアイデア創出から設計、製造、サービス、廃棄まで、製品の全ライフサイクルを管理するためのプロセス、ツール、および方法論の総称
  • BOM: Bill of Materials 製品を製造するために必要なすべての部品や材料、組み立てに関する情報をリスト化したもの